東京国際映画祭はよくなったのか:その(5)
もう受賞結果も出たが、まだ触れていない作品について書いておきたい。結果について言えば、『パレスチナ36』のグランプリは妥当だろう。国際映画祭はその時々のトピックに反応することが多いので、今のパレスチナ問題の起源を見せるこの映画は「政治的に正しい」し、映画としても見ごたえがあった。
私が一番好きだった中国映画『春の木』の監督賞と男優賞のダブル受賞は嬉しかった。リティ・パン監督『私たちは森の果実』の審査員特別賞は環境破壊を取り上げて政治的に正しいし、何より監督のキャリアへのリスペクトだろう。イタリア映画『裏か表か?』の監督賞とマケドニア映画『マザー』の芸術貢献賞には、正直ビックリ。
さて、「アジアの未来」で3本見たがどれも見ごたえがあって、コンペでもいいくらい。シンガポールのマイケル・カム監督『老人と車』は、妻を亡くして息子のいるカナダへ移住しようとする老人の日々を描く。愛車のベンツは高く売れないし、近くに住む娘は金をせびりに来るし、しまいには頼りにしていた息子からは、今苦しいので移住を延期してくれと電話がある。
そんな時に同じような年齢のトランスジェンダー女性と出会い、それぞれの人生を語り合う。今やどこの国にもよくある話だけれど、全体がセンス良くまとまっていて最後まで気持ちよく見た。
イラン映画の2本には驚いた。アラシュ・アニシー監督『遥か東の中心で』は、女性監督が映画を撮影する現場を見せるメタ映画。女性ならではの苦労に加えて、抜擢した女優の父親が娘の女優業に反対する。さらに撮影場所の美術館では、職員がジャクソン・ポロックやアンディ・ウォーホルの名画の強奪に手を貸す。
3つの物語が重なりながら不条理が極まってゆく展開にわくわくした。アミルレザ・ジャラライアン監督『ノアの娘』は、海辺のテントで寝泊まりする30代の謎の美女を描く。そこで出会う年輩の女性や若い男性との会話から、それぞれの生き方がかいま見える。何も起こらない哲学的な映画だが、この抽象性には不思議な魅力があった。
「日本映画クラシックス」の特別上映で見たダニエル・レイム監督『The Ozu Diaries』もなかなか見ごたえがあった。小津通のヴィム・ヴェンダース監督だけでなく、黒沢清、ツァイ・ミンリャン、リュック・ダルデンヌと言った監督の新しい見方に加えて、日記を読み込んで特に戦時中の小津の体験に細かく触れた点がよかった。
松竹を始めとして日本人のアドバイス通りに作った感じはしたが(だから戦時中の毒ガス作戦参加にはかすかにしか触れない)、アメリカ人監督が英語で作ったこの映画によって、海外の小津理解は一挙にレベルが高まるのは間違いない。私はP&I上映で見たが、正式上映の会場には香川京子さんもいたというから、見たかった。
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