『東京上空いらっしゃいませ』の強い抒情
国立映画アーカイブで相米慎二監督の『東京上空いらっしゃいませ』(1990)を見た。「逝ける映画人を偲んで 2023-24」という特集で、脚本の榎望さんと装飾の小池直実さんの追悼でこの映画が選ばれた。この映画では榎さんは「榎佑平」という筆名を使っている。
榎さんはこの作品が最初の脚本という。彼は松竹の社員プロデューサーでありながら脚本も書いていた。彼とは仕事はしたことはないがなぜか飲み友達で、大学でも1回講義をしてもらったことがある。それが1年半前に突然脳出血で亡くなってしまった。たまたま国立映画アーカイブのHPを見ていたら彼の追悼と書かれていたので、数時間後に思い立って見に行った。
この映画は確か川崎市市民ミュージアムのプレミア上映で見たはずだ。「ディレクターズ・カンパニー」の特集だったのではないか。その時は、実は失敗作だと思った。相米監督は『跳んだカップル』(1980)から全部見ていたし、『台風クラブ』(85)には熱狂した。この映画の直前の『光る女』(87)さえも好きだった。
ところがこの作品には全くドラマがないと当時は思った。確かに今回見てもそれはそうだが、とにかくおかしいし実に情感に溢れている。全く非現実的なファンタジーだけど、「映画的」なエッセンスが詰まっていて愛すべき映画だった。
主人公はアイドルのユウ(牧瀬里穂)。キャンペーン・ガールとして町中にポスターが溢れているが、スポンサーの専務(鶴瓶)に車の中でセクハラを受けて抵抗しているうちに車外に飛び出て交通事故死となる。天国では死神のコオロギ(鶴瓶の二役)の言うことを聞かずに、かつての姿のままで地球に舞い戻る。
そこでマネジャーの雨宮(中井貴一)のマンションに転がり込むが、自分が死んだことを知っている人と会えば連れ戻すとコオロギに言われていおり、身を隠してハンバーガーショップで働く。雨宮は何とかユウが生きていけるように考えるが、専務は彼女の死を公表して追悼番組を考えていた。結局、ユウは天国に帰る。
それだけの話だが、牧瀬里穂のパキパキのバカぶりがおかしい。鶴瓶も見るだけでおかしいし、嫌な金持ちと情けない天国のコオロギの二役が見ているだけで嬉しくなる。雨宮の兄役の三浦友和もぴったり。雨宮が住む不思議なアパートがいいし、階下に住む毬谷友子も魅力たっぷり。
ユウと雨宮が屋形船に乗って遠くで花火が鳴るシーンに井上陽水の『帰れない二人』が流れるのがいい感じ。この曲は加藤登紀子の歌も出てくる。終盤には雨宮のトロンボーンに合わせて牧瀬も歌う。そうして雨の中の車で2人はキスをして、ユウは消えてゆく。
まるで鈴木清順のように金をかけずどこかシュールだけど、強い抒情性が全体を覆う。かなりの傑作だと思った。
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コメント
「東京上空いらっしゃいませ」は今年の授業で見せて改めて気づいたんだけど、相米作品の中でここで初めて「死」が前面的なテーマになるんですよね。次の「お引越し」で「死」について直接的に言及し、「夏の庭」「あ、春」はまさに「死」についての映画です。相米が「死」を見つめはじめた。そういう意味で極めて重要な作品だと思います。
投稿: 古賀重樹 | 2026年2月25日 (水) 00時48分