初期アサイヤスに震える
よくあることだが、映画監督の全盛期は10年ほどしか続かない。フランスのオリヴィエ・アサイヤス監督も私にとってはそうで、『8月の終わり、9月の初め』(1998)や『感傷的な運命』(2000)は映画館で公開していないにもかかわらずたぶん東京日仏学院で見て、目をみはった記憶がある。
その後の作品は『クリーン』(2004)や『夏時間の庭』(2008)などが劇場公開されたけれど、どこかピンと来なかった。さて20年以上前の感動は今見るとどうかと思って、東京日仏学院のアサイヤス特集で『8月の終わり、9月の初め』を見に行った。
これが最初にジャンヌ・バリバールの笑顔がアップで出てくるシーンからよかった。あの見るからに大騒ぎが始まりそうな表情が、微妙に抑えられている。彼女が演じるジェニーは、ガブリエル(マチュー・アマルリック)とアパートの案内をしている。カメラはくるくると部屋の中をめぐり、それは2人の関係そのもののようだ。
彼らは一緒に住んでいるが別れる決心をして、アパートを売りに出している。やってくる若い男女にガブリエルは丁寧に対応しているが、落ち着きがない。ジェニーはまるでかくれんぼでもしているように、あちこちにいる。今では作家監督の作品でエキセントリックな役の多いこの2人だが、まだ新鮮な感じで人生の最初の大きな転機に戸惑う感じがそのまま出ている。
ガブリエルは編集者で友人で作家のアドリアン(フランソワ・クルーゼ)がスランプのために、テレビで彼の故郷ミュルーズを訪ねる企画を提案する。アドリアンは4冊の本を出しているが、最初の一冊が少し売れたくらいで財政的に厳しいと打ち明ける。
ガブリエルには若い恋人アンヌ(ヴィルジニー・ルドワイヤン)ができたばかりだが、極端な性格の彼女は急にミュルーズのホテルに訪ねてくる。一方、アドリアンは体調が悪くて入院し、医者からはかなり悪いと告げられる。しかしそれを伝えるのはガブリエルだけで、彼はジェニーと見舞いに行く。
アドリアンは持ち直して退院し、原子力関連の組織で働き山の中に住む友人夫妻のもとで暮らすが、ある時突然亡くなってしまう。その遺品を整理していたガブリエルは、彼に若い恋人ヴェラがいたことに気づく。ヴェラ(ミア・ハンセン=ラヴ!)はしばらくたってから、アドリアンの死を知る。
たぶん30歳後半くらいの愛と死、出会いと別れがまるで水彩画のようにさらさらと描かれている。主人公たちが自らの感情を自分でもわからないままに彷徨う姿が痛々しく、胸に沁みてくる。20世紀の終わり頃、主人公たちと同じ年の頃に見た映画だが、年をとっても同じ感動があった。後に有名になる俳優たちがみんな自然体でよかったし、ミア・ハンセン=ラヴの清冽な短髪姿が特に印象に残った。
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