『蒸発』を見たかったわけ
ドイツのアンドレアス・ハートマンと日本の森あらたの共同監督による合作映画『蒸発』を劇場で見た。見終わった後、なぜこの映画を見に行ったのかふと自分でもわからなくなった。とにかく見たいと思ったのは事実。
一つはこれはドイツが中心の合作映画であること。スタッフの大半がドイツ人だが、撮影はすべて日本。そしてテーマが日本人の「蒸発」をめぐって。予告編に、「日本では毎年8万人が失踪し、そのうえ数千人は完全に消える」という内容の文字があった。
「蒸発」する日本人が年に何万人もいるのは世界的に見ても極めて不思議な現象だというのは、アメリカ人やフランス人から聞いたことがあった。これほど失業率が少なく、社会基盤が充実している暮らしやすい社会でなぜいなくなるのかと。
映画は蒸発した人々やそれを助ける「夜逃げ屋」の7、8人を交互に写してゆく。冒頭に逃げる若者を車に乗せる「夜逃げ屋」が写る。いったい誰が夜逃げ屋なのか、何のためにやっているのかもわからない。ある若い男女は、借金で人前に出られないという。そして住処付きで金を稼げる仕事を探し、ラブホテルで住み込みで働く。
60歳少し前のある男は、大阪の西成地区に住む。いわゆる日雇い労働者が集まっている場所だが、そこにいると落ち着く。37年前にパチンコなどの借金がたまって家を出て以来、連絡を絶った。そしてある時思い立って生まれ故郷を訪ねる。それは四国の海沿いの町だった。
ある30代の男は借金が嵩んでヤクザに追われ、妻子を置いて逃げた。そして少しずつ稼ぎながら、時々子供に電話をして「もう少しだから」と伝えている。そんなに電話をしたら居場所がばれるのではないかと見ていて心配になる。
ある中年の女性は、息子が会社の寮から失踪したために必死で探しているが、どこに行っても個人情報を理由に何も教えてくれない。探偵事務所のような会社に相談するが、どうも息子はかつていなくなった父親を捜しに行ったようだ。事務所の男はその父親の兄弟に会いにゆく。
出てくる人の名前もなく、場所も明示しないからわからない。とりあえず、普通にいなくなる日本人たちを淡々と見せ続ける。夜逃げ屋にはかつて失踪した人もいる。見ながら日本は不思議な国だという気がしてくる。いわゆる「世間体」のために、一切の縁を切るとは。そしてそれでも生きていけるとは。
全く、いいような悪いような社会である。
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