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2026年3月11日 (水)

『ハムネット』の迫力

4月10日公開のクロエ・ジャオ監督『ハムネット』を試写で見た。この北京生まれで米国育ちの女性監督は『ノマドランド』(2020)しか見ていないが、フランシス・マクドーマンド演じる車上生活者のリアリティに驚いた。

あえて中国系ということを出さず、社会の隅に追いやられた人々を克明に描く丹念な演出力はなかなかのものだと思った。もちろんこの映画は反グローバリズムという「社会派」の看板を掲げていたからアカデミー賞で作品賞を含む3部門を制覇したのだし、その見せかけは弱さでもあった。

さて今度はシェークスピアの生涯である。さてどんなものを見せてくれるかと思えば、最初は森のシーンで始まる。その中に一人の若い女性アグネスがたたずんでいる。まるで森の精と生きているかのようで、植物、ことに薬草にくわしかった。映画は、彼女が学校の先生をしている若きシェークスピアと出会い、結婚して子供を産んで田舎で育てる一方、夫はロンドンで少しずつ劇作家としてし上がってゆく。

126分のうち半分は小さな村での出会い、双方の親の反対を押し切っての結婚、そして三人の子供の出産と成長を微視的に見せる。というかシェークスピアの活躍はほぼ出てこないで、中盤に彼がロンドンに行ってからもひたすら働くアグネスを見せる。

彼女の懸命の働きにも関わらず、子供の一人が病気になる。シェークスピアは忙しくだいぶ後になってやってくる。彼女は夫を厳しく責める。そしてある日、彼女はロンドン郊外に作られたグローブ座で夫の芝居『ハムレット』を見る。そこで彼女はようやく夫の心を理解する。

なかなか結末を書きにくいが、要はシェークスピアの演劇は夫婦と子供たちで作り上げた家庭とそれを取り巻く自然が作り上げたという話である。その一貫した世界観が全体を支配し、最初から最後まで緊張感に満ちた映像を展開する。

ちなみに題名の「ハムネット」は息子の名前で、当時はハムレットとハムネットは同じと見なされていたようだ。つまり彼の演劇は息子から来ているというのがポイントだ。

前回は「社会派」だったが、今回は「芸術創造」をテーマとしてそれを小さな村に生きる女性の家族愛やアニミズム的な世界へと結びつける。この達成度は見事としかいいようはないが、私はそのうまさにどこか引いたのもまた事実。

今回もまたアカデミー賞ノミネート多数だが、彼女はアート系監督としてカンヌやヴェネツィアで賞を取りつつ、より広い層を対象としたアカデミー賞も狙える監督となった。

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