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2026年4月16日 (木)

『シンプル・アクシデント|偶然』はすごい

5月8日公開のジャファール・パナヒ監督『シンプル・アクシデント|偶然』を試写で見た。この監督は『チャドルと生きる』(2000)がベネチアで金獅子賞を取った時に見てすごい才能だと思ったが、『オフサイド・ガールズ』(2006)も好きだった。

その後は2010年に監督業や国外に出ることを禁じられたまま、翌年に『これは映画ではない』を発表した。これは映画をUSBに入れて友人がカンヌへ持ち込んでの上映だった。それから監督本人がタクシー運転手として出てきてさまざまな人々と出会う『人生タクシー』(15)も見た。

それでもこの2本は、まともに映画を撮れないなかで何とか生み出した作品だ。さて彼はまだ『チャドルに生きる』や『オフサイド・ガールズ』のような風刺とユーモアに満ちた普通の映画を撮れるのかちょっと心配だった。

ところがそんな心配は吹き飛んだ。『シンプル・アクシデント』はサスペンスと政治的隠喩に満ちており、さらに現代のイランの状況まで思わせるような、震える作品だった。

冒頭に中年男が妊娠中の妻と幼い娘を車に乗せて運転している。ところが野良犬と衝突し、修理のために小さな整備工場に持ち込む。これがいわば「シンプル・アクシデント」だが、それから話はとんでもない方向に展開してゆく。

その整理工場で働くワヒドは、修理の依頼に来た男が引きずる義足の音に反応した。間違いなく彼が刑務所に収監されていた時に拷問を加えた義足の看守だった。ワヒドは彼の居場所を突き止め、強引に車に乗せて砂漠に連れ込んだ。穴を掘って生き埋めにしようとするが、男は人違いだと主張する。

不安になったワヒドは知り合いに相談する。彼はシヴァというカメラマンの女性を紹介する。彼女は元囚人で義足の看守を知っており、同じ元囚人の娘ゴリと婚約者の結婚式用の写真を撮っていた。ワヒドは車に木箱を積んで義足の男を押し込んでいる。

ゴリは間違いないと決めつけるが、シヴァは自信がない。シヴァの元恋人も現れるが、彼はすぐにでも義足の男を埋めようとする。つまりは義足の男をめぐって整備工と4人の男女が命がけで大騒ぎするが、ところが義足の男の携帯が鳴り、事態は思わぬ方向へ展開する。

いやはや、この不条理劇のような展開には本当にびっくり。そして「悪いのは体制だ」「本当はただの人間だ」「現体制のためなら何でもやるのか」と言った言葉が飛び出す。現在のイランを考えたら、頭がくらくらしてくる。そして最後にもう一度、男の義足の音が鳴り響く瞬間といったら。この映画のカンヌの最高賞は納得。

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