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2026年5月22日 (金)

『暖流』が見せる松竹大船の底力

少し前のことになるが、国立映画アーカイブの「発掘された映画たち」で吉村公三郎監督の『暖流』最長版を見た。これは1939年の初公開時は前後扁2部作・177分だったが、戦後に再編集された124分の短縮版が流通しており、私もそれを見ている。どこかにDVDも持っている。

ところが169分の16㎜が最近発見され、アーカイブで35㎜に起こしたという。これを見ようと行ってみたら、上映前の大澤浄・主任研究員の解説で、さらに長いバージョンを上映するとわかった。まず戦後の短縮版以外に132分の英語字幕版が1941年に国際文化振興会によって作られた。

私の考えでは、これは1939年のベネチア国際映画祭で好評だったので海外に輸入しようとしたはずだ。会場にいた戦時下の中国における日本映画の上映に詳しいアン・ニさんは、上海で上映されたのはこの英語字幕版だと私に言った。

さて国立映画アーカイブで実際に上映されたのは、チラシの169分ではなく、173分だった。大澤浄さんはこれが短縮版と英語字幕版と16㎜版から最良の部分を選んだデジタル復元版だと説明した。彼によれば16㎜版は画質が悪いので、上映の1か月前にすべてを足して編集しようということになった。

これを外注すると費用が数百万はかかるので、アーカイブ内でデジタルに落とし、デジタル上で作り上げたという。確かに16㎜の部分は状態がよくない。本当に音が聞こえにくい場面には字幕を入れるという配慮まであった。もちろん時間とお金があれば、16㎜部分の画面の傷や雑音を消すことが可能だったろうが。

ではどこが増えたのかと言えば、一つは坂本武演じる大阪の薬問屋・相良が出るシーンで、一度は佐分利信演じる主人公・日疋が相良の滞在する旅館で返済を遅らせてもらい、終盤には相良の住む大阪に行って病院に出資をしてもらう。人の良さそうな坂本武の表情がいい。

もう1つは終盤に出てくる河村黎吉演じる煙山弁護士のシーンで、あのいかにも怪しそうな河村黎吉が院長の息子が日疋を訴えた件を話す。この2人の脇役のシーンはどちらもなくても話は通じるが、やはり松竹大船の名脇役2人が出てくるだけで盛り上がる。実際に河村黎吉が出てきた時は、どっと笑いの声があがった。

脇役と言えば院長のバカ息子を演じる志摩孝彦を演じる斎藤達雄も最高だった。あるいは病院事務長・糸田役の日守新一はいかにも底の浅い日和見の男がピッタリ。そして高峰三枝子の許嫁でありながら、最後に振られてしまうかわいそうな外科部長の徳大寺新がかっこばかりつける中身のない男でお見事。

もちろん主役の佐分利信と高峰三枝子、水戸光子の渾身のぶつかり合いがあっての映画ではあるが、全体としてはヴィヴァルディやショパンやチャイコフスキーの名曲をふんだんに使った音楽も含めて俗っぽいが実にドラマチックな映画の仕立てに、松竹大船の名優たちがぴったり合っている印象を受けた。

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