『廃用身』の恐ろしさ
昨夏、久しぶりに出た小学校の同窓会で同級生O君と話したら、かなりの映画好きになっていた。その時に勧められた映画『ウォーフェア 戦地最前線』がよかったので、また彼のおススメの『廃用身』を見に行った。吉田光希監督の名前は聞いたことがあるが、1本も見ていない。
これがなかなか恐ろしい映画で、よくシネコンでやるなと驚いたくらい。題名の「廃用身」という言葉は知らなかったが、この映画の原作、久坂部羊の小説の題名として知られているようだ。それにしてもシネコンでやる映画の題名としてはちょっと異様な感じ。
その意味するところは、機能がマヒして無用となった手や足のこと。映画はデイ・ケアの院長が、ある患者の放っておくと危険な状態になった足を切断したのをきっかけに、通ってくる患者の不要な手足切断をどんどん進めるという話。
映画は六平直政演じる患者・岩上が豪邸に戻るところから始まる。車いすに乗った立派な体格の彼を、池に橋などがかかった庭を超えて運ぶには三人の大人が苦労して運ぶ。しかし自宅にいる妻や息子は彼を憎んでおり、息子は虐待までしていた。
ある日、石上が通うデイ・ケアの院長、漆原(染谷将太)は、化膿の進む右足の切断を石上に勧めた。悩んだ末に手術を受け入れたが、実際に片足がなくなってみると身軽になって気分がいい。周囲も喜んでいる。石上は治る見込みのないもう片足と左手の切断を自ら申し出る。
ポイントは漆原院長が強引に進めているわけではないこと。何度も確認をしたうえで丁寧に進める。そして知り合いの外科医につないで切断してもらう。右手だけになった石上は体調や顔色がよくなり、それをデイ・ケアのみんなが集まる会で報告し、喝采を浴びる。
漆沢は廃用身の切断を「Aケア」と名付けて推奨し始める。するとそこに通うほかの老人たちがみんなその気になる。切断を希望する者が何人も出てくる。ある女性は話すことのできなくなった夫を毎日そこに連れてくるが、また話がしたいと切断を申し出る。しかし手術を終えても夫は同じ状態だ。
結果としてはこれが週刊誌で報道されて大騒ぎになるが、映画は最後までクールに淡々と見せてゆく。岩上のその後など恐るべき現実を見せながらも残酷さは煽らない。サスペンスやホラーになりがちなところを、現実という一点で食い止めてリアルな細部を重ねることで見ている観客に迫ってくる。
私も、もし自分が車椅子の生活だったらと考えてしまった。テーマと脚本と演出がピタリと合っている感じ。あえて言えば、話を回す役割の出版社の編集者はいなくてもよかったかも。
| 固定リンク
「映画」カテゴリの記事
- 『霧のごとく』の重さ(2026.06.07)
- 金子修介『無能助監督日記』を読む(2026.06.05)
- 『サンキュー、チャック』のカール・セーガン(2026.06.03)


コメント