『ルオムの黄昏』に引き込まれる
中国のチャン・リュル(張律)監督が同じ俳優を使って撮った『春樹』と『ルオムの黄昏』が上映中だ。『春樹』は去年の東京国際映画祭で『春の木』という題で上映されて大好きな映画だったので、『ルオムの黄昏』を劇場に見に行った。
冒頭、ドビュッシーの『牧神の午後への前奏曲』が流れるなかで、ルオム(羅目鎮)の小さな宿に着いたバイ(白)がチェックインをする出だしはちょっと作りすぎだと思ったが、見ているうちに細部の繊細さに引き込まれていった。
バイは宿の女主人のリウ(劉)になぜ来たのかと聞かれて、3年前に消息を絶った恋人のワン(王)からの「ルオムの黄昏」とだけ書かれた絵葉書を見せる。バイは毎日ルオムを歩き回る。リウには彼女を20年間思い続けているファン(黄)がいて時々遊びに来るが、ある時プロポーズを受ける。
リウはいつもワインを飲んでいる。何度勧められてもバイは断って水を飲むが、それには訳があるようだ。ある時韓国人の若い男性旅行者が宿に着く。彼は父親が「アリラン」を歌う音声をみんなに聞かせ、しまいにはバイ、リウ、ファンも一緒になって踊り出す。その唐突さと懐かしさといったら。
ある時はちょっとお洒落な男性が訪ねてくるが、リウは身分証明書を見たとたんに「満室です」と断る。バイが理由を尋ねると、かつてつきあった金融関係の男に顔つきが似ていたからという。
バイがだんだんルオムに馴染んで知り合いもできた頃に、ワンがある寺にいたという情報が来る。バイは大慌てで友人の運転する車でリウと共に行くが、そう簡単にはいかない。最後には再びドビュッシーが流れる。
結局、何も起きない99分だが、そこには寂れたルオムのいい感じの雰囲気にバイのなごんだ表情があり、人生を振り返るリウやファンの落ち着いた気持ちの良い姿がある。ファンを演じるのは『春樹』にも出ていた黄建新監督(かつて『黒砲事件』などで知られた第五世代)である。
この監督には日本で撮影した『福岡』(2019)や『柳川』(2021)がある。あれだけ土地の匂いにこだわる監督が、福岡や柳川でどういう世界を撮ったのか気になる。調べたらアマゾン・プライムで見られるではないか。何という時代か。
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