『映画監督 崔洋一 映画は闘争だ!』を読む:続き
前回、この本について書くと言いながら自分が崔洋一さんに怒鳴られたことしか書かなかったので、今回は本の中身について書こうと思う。この本は全体の4/5の第一章が、ライブ配信番組「DOMMUNE」における樋口尚文さんのロングインタビューからなる。
2022年1月に癌闘病を公表し、ライブ配信は5月と6月に行われたというが、計12時間というからすごい。同時期に朝日新聞の石飛徳樹記者による5回連載インタビューも受けている(こちらの内容も第1章に含まれるのかも)。その夏にはこの2人に加えて映画評論家の野村正昭さんが崔さんに呼び出され、本の編集と刊行を託されたという。
彼は11月末に亡くなっているから、もちろん死を覚悟してのことだろう。自分の足跡を本にして欲しいから、闘病中なのにロングインタビューを受けた。だからこの本はある意味ではこの監督の公式本で、小さい頃から本人の写真が実にたくさん載っている。それを見ているだけで何とも胸が一杯になる。
私がこの本で一番驚いたのは、『マークスの山』(1995)に3時間半のバージョンがあったということ。私が見たのは劇場公開された2時間18分のものだが、3時間30分のものは監督が「最も面白いバージョンなんです」「スタッフの満足度も高かった」と。
樋口さんは、松竹の榎望プロデューサー(私や樋口さんや石飛さんと同世代だが2023年に亡くなった)から「とてつもない傑作」と聞かされていたと言う。松竹の例の奥山騒動の中で、3時間30分からカットした部分は捨てられたというから、本当に残念な話だ。
「3時間30分のバージョンのなかでは、暴力を嫌悪しているはずの人間がなぜ暴力になだれ込んでいくのかという心理的な過程をもっと丁寧に描いていたと思うんですよ」と本人が言うのだから。私は公開時とフィルムセンターの全作品上映と2度見たはずだが、力作だと思いながらもどこかわからない部分があった。
そして監督は「もし自分が棺桶に入れて欲しい自作を選ぶとしたら、この『マークスの山』と『友よ、静かに瞑れ』ですね。みんなは『月はどっちに出ている』や『血と骨』じゃないの?って思うかもしれないけれど」と言うが、私も「みんな」と同じだ。
そのほか、この本には読んでいて大笑いする箇所があちこちにある。25歳の若さで大島渚から『愛のコリーダ』のチーフ助監督を頼まれて会いに行く。「くそ生意気な自分のなかでは「よおし、いっちょカマしてやろう」なんて思いながら赤坂の大島渚プロダクションに行ったわけですよ。ところが待っていた大島さんが開口一番「君が新宿で一番喧嘩の強い崔くんか」って笑ってるわけ。もうこう来られては質問もなにもぶつける余地なんてなくって」
こんな感じがたくさん出てくるが、続きは次回。
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