カール・ヴァルザーとは何者か?
「カール・ヴァルザーとは何者か?」とは東京ステーションギャラリーで6月21日まで開催されていた「スイス絵画の鬼才 カール・ヴァルザー」展のチラシにある言葉だ。私も全く聞いたことのない名前だったが、来日していたベルギー人の美術史家夫妻に誘われた。
チラシは手にしたことがあって、日本の歌舞伎のデッサンもあって所蔵の多くが「新ビール美術館」と書かれていたので、私はてっきり日本のビール・メーカーが日本好きのスイス人画家の作品を集めたのかと思っていた。
ところが「ビール」はスイスのベルン郊外の都市Bielのことで、この画家が生まれた町の名前という。そこに新たにできたのが「新ビール美術館」というわけ。さらに知らなかったのは、カール・ヴァルツァーの弟、ローベルト・ヴァルツァーはスイスのドイツ語圏作家として有名だったこと。
展覧会の後にショップに行ったら弟の本の邦訳がいくつも並んでいて、自分の無知を悟る。ベルギー人の夫の方はドイツ語に堪能で弟の文章が好きだとのこと。展覧会では兄カールが書いた絵に弟が長いコメントを寄せているキャプションもあった。一般的には弟の方が有名のようだ。
さて彼の絵はどうかと言えば、19世紀末から20世紀前半のフランス絵画を見過ぎた目からすると、ちょっと夢見がちというか幻想的だ。《隠者》(1907)は代表作の一つと思うが、山の斜面に立つピンクの壁の石の家の周りには木々が並び、白やオレンジの花が咲く。
その前の芝生には青いドレスの大柄な女性が緑の庭に大きな本を広げて肩肘をつきながら読む。空には黄色くなった大きな雲がいくつも浮いている。ある種の理想郷というか、今世紀初頭の北ヨーロッパ人がこうあったらいいなと想像する夢の世界。作家の弟のコメントもあったが、夢見がちな詩だ。
《森》(1902-03)は人影はなく、杉のような高い木がうっそうと茂る。黒に近い濃い緑の木々の下には緑の大地が見える。そして上の空は橙色の夕日。これまたドイツの理想の光景ではないだろうか。バッハの音楽が聞こえそうだ。
彼は1908年、恋人が目の前で自殺したショックを和らげるために(!)、作家のベルンハルト・ケラーマンと共に日本に旅行する。そこでは歌舞伎を始めとして明治末期の日本の芸術や風俗を楽し気にスケッチしている。特に京都の天橋立のある宮津が気に入ったらしく、周囲を何枚もの絵に残している。
帰国後は舞台美術を中心に活躍しているが、日本の絵が半分を占める。明治までの日本は本当に美しかったと改めて思う。
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