『アニキ・ボボ』のドゥロ河
ポルトガルのマノエル・デ・オリヴェイラの第1回長編『アニキ・ボボ』(1942年)を久しぶりに見た。前に見たのはたぶん1995年頃のポルトガル映画祭ではないか。全く記憶にないが、今回見たらなかなかよかった。
クレジットが出てくる前に、突然列車が画面に飛び込んでくる。そしてそれを見て万歳をして大騒ぎする子供たちが出てくる。それからクレジットが始まるが、まるでリュミエール兄弟の列車の到着の子供バージョンのようだ。
子供たちが悪いことをしないかと見張りをする警官はチャップリンの映画のようだし、みんなで学校をさぼって遊びにいく悪ノリの感じは、ジャン・ヴィゴの『新学期 操行ゼロ』に近い。この映画はイタリアのネオレアリズモの先駆とよく言われるが、私はむしろサイレントのドタバタ喜劇だと思った。
カルリートスは内気な少年で美少女のテレジーニャを好きだが、彼女はガキ大将のエドゥアルドについてゆく。ある時、洋品店の前をみんなで通るとショーウィンドウに飾ってある人形をテレジーニャは欲しいと言う。カルリートスはある日その洋品店に行き、隙を見つけて人形を盗んだ。
すごいのは、その人形を渡すのに夜中に屋根をつたってテレジーニャの部屋にたどり着く場面。見ていてひやひやする。寝ていた彼女は窓を開けて、大喜びで人形を受け取る。そして翌日から彼女は少しはカルリートスを気にかけるようになったが、やはりエドゥアルドについてゆく。
ある時、みんなで学校をさぼってタコをあげていると、土手の下を列車が通る。みんな大騒ぎして見る(これが冒頭の場面)が、カルリートスがそこに駆け付けた時、エドゥアウドは足を滑らせて線路ぎわに落ちてしまう。その横を列車は通り過ぎる。
結局エドゥアルドは軽く怪我をしただけだったが、自分が突き落としたと勘違いしたカルリートスは反省し、人形も洋品店に返しに行く。いいのは洋品店の店主のおじさんがすべてを見ていて、カルリートスは突き落としていないと証言し、人形をプレゼントだとテレジーニャに渡すこと。一見怖そうで実は優しいおじさんが抜群で、ジャン・ヴィゴの映画に出てきそう。
たぶん、ネオレアリズモにはつながっていない。そう思った。それにしても子供たちが遊ぶドゥロ河沿いが実にいい感じ。オリヴェイラの映画はこの河と共にある。『アブラハム渓谷』(1993)にも絶えずこの河が出てくるが、もっと山に近い裕福な地域だった。
| 固定リンク
「映画」カテゴリの記事
- 『ディスクロージャー・デイ』のおもしろさと不可解さ(2026.10.07)
- 『ナギダイアリー』の新境地(2026.10.01)
- 『ビルマの竪琴』から『花と兵隊』へ(2026.09.27)
- 1年ぶりの海外で考えたこと:その(5)飛行機の映画(2026.10.03)


コメント