《真珠の首飾りの少女》の騒ぎをめぐって
大阪の中之島美術館でフェルメールの《真珠の首飾りの少女》をメインにした展覧会が開かれて、大騒ぎになっている。日時指定の入場券は3000円なのに応募者多数で抽選制らしい。展示されているのはこの作品以外に、初期フェルメールが1点とほかのオランダ絵画10点のみ。
私の記憶だと2012年に東京都美術館(神戸に巡回)でやった「マウリッツハウス美術館展」でこの2点は出ていた。ただほかに50点ほど展示していてオランダ絵画の流れがよくわかった気がしたものだ。今回はたったの12点。
主催はどちらも朝日新聞社。中にいたからわかるが、きっと「朝日」は3億円くらい借料を払っているに違いない。点数は少ないが、前回も「少女」がメインでポスターに使っていたし、今回はほかはいらないから「ソレだけ」を持ってきた感じか。その方が輸送費など金もかからないし、宣伝もしやすい。
今回は6月に天皇がオランダを訪問した時もこの作品を見ており、大阪の開会式には愛子さんが出席。「朝日」はもちろんそれらを写真付きでしっかり報道し、今回の騒ぎに仕立てた。昔はこの作品は《青いターバンの少女》と呼ばれていたが、私の記憶だとこの絵を扱った2003年の映画で初めて『真珠の首飾りの少女』という題名にしたのではないか。
個人的には、この絵はほかのフェルメールに比べておもしろみは少ない。ルーヴルの《天文学者》とか《レースを編む女》とか、あるいはドイツの《地理学者》とかウィーンの《絵画芸術》とか。当時のオランダの世界への眼差しの複雑さが一枚の絵に幾重にも宿っているのだが。
新聞社やテレビ局による「展覧会のスペクタクル化」は私が2020年に『美術展の不都合な真実』で書いた通りだが、ちょうどコロナ禍で収まったかに見えたこの傾向が、ここに来て前よりもそれが高まっている。大阪万博の影響もあるだろう。今回の映像を使った解説はまさにパビリヨンだ。
さて最近は「稼ぐ美術館」と財務省や文科省が騒いでいるが、これはその逆の「貢ぐ美術館」だろう。絵画鑑賞とは程遠いイベント的な環境で1点だけを見せて、毎日満員にして数億の借用料をオランダの美術館に払うのだから。本当ならば日本美術を海外に貸し出して稼ぎたいところだが、残念ながらそれはありえない。
美術では、日本を含む世界の観客はあくまで西洋を中心にした美術史観にどっぷり浸っている。ルーヴルの『モナリザ』は世界中から見に来るが、東博に雪舟や等伯を見に来る外国人はめったにいない。そもそも日本美術の紙ものは年に2週間程度しか展示できないから「稼ぐ」のには向かない。そんなことを考えた。
| 固定リンク
「文化・芸術」カテゴリの記事
- 『日本美術応援団』のおかしさ(2026.10.11)
- 「大英博物館」展を見ながら考えた(2026.09.09)
- 《真珠の首飾りの少女》の騒ぎをめぐって(2026.09.05)
- 《納涼図屏風》に考える(2026.09.01)
- 「上野・大牟田・ブエノスアイレス」展の謎(2026.08.28)


コメント